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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2800号 判決

原告 株式会社 三正

被告 社団法人日本通商振興協会 外五名

主文

一  被告社団法人日本通商振興協会、同小場惣治は各自原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年四月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告社団法人日本通商振興協会、同小場惣治に生じた費用を右被告両名の連帯負担とし、原告に生じたその余の費用と被告千田貞清、同佐藤政吉、同小塚一麿、同木口正夫に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五四年四月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(各被告とも)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、不動産売買の仲介管理開発等を業とする不動産会社である。

(二) 被告社団法人日本通商振興協会(以下「被告協会」という)は日本の産業貿易の振興をはかるため各種出版貿易斡旋等を目的とする社団法人である。

(三) 被告千田貞清(以下「被告千田」という)、同佐藤政吉(以下「被告佐藤」という)、同小塚一麿(以下「被告小塚」という)、同木口正夫(以下「被告木口」という)、同小場惣治(以下「被告小場」という)は、昭和五三年四月頃いづれも被告協会の理事であつた。

2  被告小場による二〇〇万円の詐取

(一) 被告小場は、昭和五三年四月頃原告に対し、被告協会は種子島に石油備蓄基地建設を計画(以下「本件計画」という)しており、訴外日本鋼管株式会社も本件計画に協力する予定である旨申し向けて、本件計画への原告の協力を要請した。

(二) 原告は、北九州地区において海上石油備蓄基地の計画を推進しており、本件計画を右計画の関連事業として原告の協力要請に応ずることとした。

(三) 昭和五三年五月二日原告と被告小場は本件計画につき協議し、協定書案を作成し、翌三日右協定書案を正式契約書として、原告と被告協会間において本件計画についての協定を締結することを約した。

(四) その際被告小場は、原告に対し、本件計画の経費として二〇〇万円を一時立替えてほしい、とりあえず仮領収書を差入れ、明日協定書の調印が行われる時正式領収書と差換える旨申し向け二〇〇万円の金員の交付を懇請した。原告は、昭和五三年五月三日締結予定の協定書案に、原告は本件計画の経費につき被告協会より申出のあつた時は経費を一時立替える旨の条項が存したこと、被告協会が公益法人であること、本件計画が社会的に有益であることから右小場の申し向けを信用し、同月三日原告被告協会間に協定が締結され本件計画が直ちに実行に移されるものと信じ、被告小場に経費の立替えとして二〇〇万円を交付した。

(五) 翌三日、原告は被告協会と協定を締結すべく待機したが、被告協会及び小場からは何の連絡もなく、原告は金二〇〇万円を騙取されたことを知つた。

(六) よつて、被告小場は民法七〇九条により、被告協会は民法四四条により原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

3  被告千田、同佐藤、同小塚、同木口(以下「被告小場を除く被告理事ら」という)の責任

(一) 被告小場を除く被告理事らは、被告協会が本件計画を原告と協力して実行する意思も資力も存しないにもかかわらず恰かもこれあるかの如く装い、被告小場をして原告に本件計画の協力を要請し、原告を本件計画が実行されるものと誤信せしめ、原告がその要請に応ずるやさらに経費立替を懇請し、右原告の誤信に乗じて原告より金二〇〇万円の金員を交付させてこれを騙取したものである。

(二) 仮に、被告小場を除く被告理事らが本件計画につき知らなかつたとしても、右被告らは被告協会の理事として各自常に他の理事の行為に熟知しこれを監視抑制しもつて被告協会が第三者に損害を与えることを防止する注意義務を負つているものであるから右被告らは被告小場の行為を見逃し何らの抑止をしなかつたことにつき過失がある。

4  よつて、原告は被告らに対し、被告らの不法行為に基づいて生じた損害の賠償として、各自金二〇〇万円及びこれに対する被告らに対する訴状送達が完了した翌日である昭和五四年四月一〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告協会、同千田、同佐藤、同小塚、同木口の認否

(一) 請求原因第1項(一)の事実は知らない。同(二)(三)の事実は認める。

(二) 同第2項の事実は知らない。

(三) 同第3項の事実は否認する。

(四) 被告千田、同佐藤、同小塚の主張(積極否認)

被告協会は、被告小場によつて私物化され被告小場個人によつて運営されており本件計画も被告小場の独断によりなされたものである。被告千田、同佐藤、同小塚は被告協会の理事ではあつたが会務についてはほとんど知らされておらず本件計画についても全く知らなかつた。

2  被告小場の認否

(一) 請求原因第1項の事実は認める。

(二) 同第2項(一)ないし(三)及び(五)の事実は否認する。同(四)の事実中原告より二〇〇万円を受領した事実は認めるがその余は否認する。

(三) 同第3項(一)の事実は否認する。同(二)の事実は知らない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1について

原告代表者の尋問の結果によれば請求原因1(一)の事実が認められ(原告と被告小場間には争いがない。)、同(二)(三)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

原告代表者の尋問の結果及びこれによりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一ないし第四号証、同第五号証の一ないし八、同第六号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因2の(一)ないし(五)の事実をすべて認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、被告小場及び被告協会が原告の蒙つた損害を賠償する責任を負うことは明らかである。

三  請求原因3について

1  請求原因3(一)について判断するに、原告代表者の尋問の結果によれば、二〇〇万円の授受の際、被告小場が、原告との協定締結につき被告協会内部で了解をとつた旨原告に対して申し向けたことが認められる。しかしながら、成立に争いのない乙第四ないし第七号証、被告佐藤政吉本人尋問の結果により成立を認めうる乙第二号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一、第三号証、被告佐藤政吉本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、被告佐藤、同小塚、同千田は昭和五二年四月、被告木口は同年九月、同小場は同年一二月それぞれ被告協会の理事に就任しているが、昭和五二年当時被告協会の運営は当時理事であつた訴外野口が一人で行つていたこと、被告佐藤の理事就任後理事会で被告協会の運営についての話し合いが行なわれたことは殆どないこと、被告佐藤が被告木口と初めて会つたのは昭和五四年一月、被告小場と初めて会つたのは同年三月、いずれも原告より本件請求を受けた後にその処理方法につき話し合うためであつたこと、被告佐藤、同小塚、同千田は昭和五四年五月理事を退任した旨登記されているが、いずれも本人が知らないうちになされていること、本件計画が理事会で正式に話し合われたことがないのはもちろん、被告小場を除く被告理事らは、本件計画及びこれに関する原告と被告小場間の交渉につき全く知らないことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右認定事実によれば、被告小場が原告に対し被告協会内部での了解をとつた旨申し向けたのは、被告小場が自己の独断で行なつているにもかかわらず原告を信用させるために虚偽の事実を申し向けたものというべきであり、被告理事らが共謀して原告より二〇〇万円を詐取したということはできない。

2  請求原因3(二)について判断するに、原告は、被告協会の理事は他の理事の行為に熟知し、これを監視抑制し、もつて被告協会が第三者に損害を与えることを防止する注意義務を負う旨主張するが、商法二六六条の三のような特別規定がない以上原告主張のように解する法律上の根拠はなく、民法上の法人の理事は、他の理事が第三者に損害を与えることを認識し若しくは認識し得べきであつたのにこれを抑止しなかつた場合にのみ過失責任を問われることがあるにすぎないものと解すべきであり、被告小場を除く被告理事らにつき右の意味での過失があることは、本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない。

四  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告協会、同小場に対しては理由があるからこれを認容し、その余の被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増山宏)

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